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心理療法としてのミュージックセラピーについて③

心理療法としてのミュージックセラピーについての連載コラム(全3回)の最終回です。2回目をアップしてから,なんと1年以上経ってしまいました。忘れていたわけではありません。ずっと気になっていました…(なんだか毎日忙しくてモゴモゴモゴ…)。

1~2回目をまだご覧になっていない方は,ぜひ1回目からご覧ください。一度読んでくださった方も,あまりに久しぶりで1~2回目に何が書いてあったかもう忘れちゃいましたよねー…よろしければ,はじめからもう一度ご覧ください!


「心理療法としてのミュージックセラピーについて①」はこちらです(クライエントとセラピストの交流媒体である即興的音楽づくりのこと)

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「心理療法としてのミュージックセラピーについて②」はこちらです(即興的音楽づくりを通して築かれていく治療関係のこと)

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まず,本連載コラム1回目と2回目でもお示しした,私なりのミュージックセラピーの定義を再度ここに提示します。


この中には,3つのキーワードがあります。1つ目は「即興的な音楽づくり」,2つ目は「人間関係(治療関係)」,そして3つ目が「心理療法」です。


連載1回目は,このうちの1つ目のキーワード「即興的な音楽づくり」について,そして2回目は2つ目のキーワード「人間関係(治療関係)」についてでした。


最終回となる今回は,3つ目のキーワード「心理療法」についてです。


ミュージックセラピーでは,クライエントとセラピストが音楽的に交流しながら,治療関係という人間関係を築いていきます。なぜ治療関係という信頼関係を築くプロセスを私たちが重視するのかというと,この信頼関係を支えにして,クライエントの抱える心の問題や課題に取り組んでいくためです。


心のしんどさや生きづらさ、対人関係やコミュニケーションの問題、あるいは老いることに伴う心の反応や喪失体験など、クライエントの抱える心の課題は様々です。一見幸せと思われるようなライフイベント(例えば結婚や出産など)を通して、心の課題と直面することもあります。また,子どもの場合には心の発達が課題となることもあります。ミュージックセラピーでは,クライエントが言葉で自分のしんどさや葛藤を表現するというよりは(言葉で表現することもあるけれども),クライエントの音楽的表現の中に,またセラピストとの関係性の中に,クライエントの抱える問題が現れてきます。セラピストはそれに気づき,クライエントがその課題に取り組むことができるように援助していきます。心の問題や課題に取り組む過程では,クライエントは自分の様々な感情に遭遇します。自分に内在していた前向きな力,クリエイティビティを発見することはとても感動的です。一方で,そこに至るまでには,様々なしんどい感情とも再会*)します。セラピーでは,クライエントのペースで少しずつ内面を見つめていきます。セラピストはクライエントが困難に向き合えるようクライエントのペースで伴走します。


私たちは、クライエントの年齢や障害名・病名などで、クライエントをひとくくりに捉えることはしません。いつでも、目の前にいる個々のクライエントの内面に思いを馳せ、その方の心の旅をサポートします。また、心の旅は対話(言語的であろうと,非言語的であろうと)を通して深まると考えています。ですから、決まったプログラムや流れを予め用意するのではなく、奏でる音や音楽も含めて、ミュージックセラピーの場で起こることすべてが「即興的」であることを非常に重要なことと考えています。

心理療法としてのミュージックセラピーは,1回や数回のセッションで大きな変化があるような即効性のある営みではありません。クライエントのペースで,時間をかけて継続して関わる中で,少しずつ内面に変化が起こるものと考えています。


現在,日本では心理療法としてのミュージックセラピーはあまり実践されていないようです(阪上,2015)。心理療法としてのミュージックセラピーは,プライバシーを要求しますので,なかなか実践をお見せできないこととも関係しているのかもしれません(しかしクライエントの利益を優先する私たちは,やはりお見せすることはできないのです)。だからこそ,私たちは心理療法としてのミュージックセラピーを多くの人に適切に知ってもらえるよう努めたいと思っています。このウェブサイトを通して,心理療法としてのミュージックセラピーについていろいろ発信しているのはその試みの1つです。


「心理療法としてのミュージックセラピーについて」の連載コラムはこれで最終回です。もちろんたった3回の連載では十分には伝えきれていませんが,みなさんが心理療法としてのミュージックセラピーに少しでも関心を寄せてくださったなら幸いです。



*「再会」という表現をしたのは,その感情はクライエントがかつて人生のどこかで経験した感情だからです。経験することがしんどい感情には,人はふたをしてしまうことがあります。精神分析のことばでそれを「抑圧」といいます。


【参考文献】阪上正巳 (2015)『音楽療法と精神医学』人間と歴史社

(2023年2月 坂口みゆき)

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