私たちのウェブサイトの中に「Music Therapyって何? 」というページがあります。そこで,私たちが専門とする心理療法としてのミュージックセラピーの概要を簡単に説明しています。
実は,その文章,もとはもっと長い文章だったんですが,長すぎて却下になりました!
私たちのウェブサイトを読んでくださるみなさんに,心理療法としてのミュージックセラピーのことを知ってもらいたい!という思いが強すぎて&熱すぎて,気がついたら長くなってマシタ…。
そこで,その時に却下になった長文バージョンを土台にして,コラムページ用に再構成した「心理療法としてのミュージックセラピーについて」を3回に分けてお送りしたいと思います。
まず,私なりの心理療法としてのミュージックセラピーの定義をお示しします。
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ミュージックセラピーは,即興的な音楽づくりを自己表現やコミュニケーションの媒体として用い,即興的かつ音楽的な交流を通してクライエント(患者)とミュージックセラピスト(音楽療法士)の間に築かれていく人間関係(治療関係)を土台として,クライエントの心の課題に取り組む心理療法です。
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この中には,3つのキーワードがあります。1つ目は「即興的な音楽づくり」,2つ目は「人間関係(治療関係)」,そして3つ目が「心理療法」です。私は,この3つの要素すべてが,ミュージックセラピーを定義するのに重要だと考えています。
すでに,前置きが長い…(汗)。ここからが今日の本編です。
今日はその①ですので,1つ目のキーワード,「即興的な音楽づくり」についてです。
早速ですが,ミュージックセラピーでは,様々な楽器を使います。ミュージックセラピーのセラピールームに入ると,異なる素材や音色をもつ,いろいろな大きさや形の楽器がたくさん並んでいます(例えばどんな楽器なのか…は,前回のコラムの写真をご参照ください)。ミュージックセラピストはクライエントに,室内にある楽器をどれでも思うままに奏でることを励まします。
はじめて出会った人との言葉でのやり取りでも,少し緊張したり,はじめは差しさわりのない話から始めたり,お互いに相手の様子を見ながら少しずつ言葉を交わしたりして,徐々に心を開いていきますよね。それと同様に,音を通したやりとりも,はじめは少し緊張することが多いです(セラピストも)。とりあえずよくわからないけど音を鳴らしてみるところから始まって,セラピストはクライエントの様子を見ながら,クライエントはセラピストの様子を見たり見なかったりしながら,ぽつぽつと音を交わしていきます。そして,何度もセッションを重ねるうちに,音楽的なやりとりも深まっていきます。
それは,どんな感じかというと…。クライエントが奏でた素朴な音,楽しげな音,悲しげな音,荒々しい音…あらゆる音や音の連なりに,ミュージックセラピストは音や音楽で応答します。クライエントは,自らが奏でたどのような音や音の連なりにも,ミュージックセラピストが音楽的に応答してくる…という経験を重ねるうちに,音が自己表現やミュージックセラピストとの対話の手段となっていることに気づきます。クライエントはそのうち,意識的にせよ無意識的にせよ,音に自らの内面を託して奏で始めます。ミュージックセラピストは,クライエントが奏でた音を受けとめ,音で応答します。それはつまり,クライエントが音に託したクライエントの思いや感情を受けとめ,応答するということなのです。
このようなやりとりから生まれる音楽は,私たちが普段歌ったり聞いたりしている音楽とは少し異なることも多いです。つまり,調性が整っていなかったり,拍子が整っていなかったり,不協和音が続いたり,がちゃがちゃしていたり,音が突然途切れたり,長い沈黙があったり…。しかし,ミュージックセラピーの場では,クライエントとセラピストの音のやりとりが連なって表れてくるミュージックこそ,価値あるものと考えています。
つまり,この音のやりとりは,コミュニケーション-心の交流なのです。
そして,このような即興的で創造的な音のやりとりを,私たちミュージックセラピストは「即興的な音楽づくり」,あるいは演奏家による即興演奏と区別して「臨床即興」と呼んでいます。
さて,その②では,この「即興的な音楽づくり」を通して築かれていく「人間関係(治療関係)」について記したいと思います。
(2021年10月 坂口みゆき)
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